2012年7月18日水曜日

技工の行く末  その5

歯科技工とはどういう仕事だろうといへば

「元の形態、あるべき形態を回復する仕事」
「削ったところを完全に覆い、元あった形態を回復し、色調形態とも周辺と調和させる仕事」

まぁそんなような感じでしょうか。
「作る」ということに観点を置いた場合は、です。

ですから機械化になっても、それらは出来るだろうとも思います。
適合や色調などの客観的評価も、求められるレベルにもよりますが、いずれはアベレージで人は負ける日もくるのではないでしょうか。




私見として少々偉そうにいわせていただければ、歯科技工士の仕事には、作ることは当然として、その取り組み自体には「歯科医師と患者の間に存在し、双方の要望を可及的に満たす仕事」というモノがあるのではないかと思っています。

「作る」ということは「作れる準備」を整えたうえで行われる行為であって、例えばJPIの重村氏も「模型作り」で7~8割の勝負はついている、とも言っていました。


保険のクラウンブリッジで、歯科技工士が支台歯の模型に何の調整もせずマージンをフィットさせた技工物が、実際に患者さんの支台歯に入るのか?といえば、入らないだろうなと思うケースが沢山あります。

各支台のアンダーカット

 平行性

支台 表面の凹凸

 支台表面の凹凸

表面の荒れ、マージン修正


アンダーカットがあり、支台歯の細かな凸凹あり、削ってないのにマージンは下まで、表面一層削ってるだけなのに「低く作って」、どうやってセットするんだろうと首を傾げたくなるような平行性のないBrの支台歯、隣在歯辺縁隆線より高い支台歯などなど。


保険の(とは限りませんが)模型を見ていると、こういった問題が少なくありません。




技工士は歯科技工というものが、こういった無理難題が日常的に沢山存在するということを臨床に出て初めて知り、経験という名のもとに見事に解決(?)できる術を身に着け、先生と患者さん双方が納得いく落としドコロを見極められるようになる、という部分もあると思います。










印象~石膏という工程自体が技術や意識の差を形にしてしまうものであり、その工程が減る分だけ不確定要素が減るという見方もあります。


それでも、印象~石膏の工程は除外して考え、模型から想像する実際の口腔内を想定し、現実的に「もし、これらを全て口腔内スキャナーで撮影して半製品の製作を依頼した場合、CAMセンターは受けるのか?」ということを考えると、まず絶対受けないだろうというケースが多く存在します。




平行性だけではなく、歯面の凸凹でアンダーカットがあれば「製作不可」ですし、CAMセンター側はデータ内容が製作可能範囲に入るまで、再形成、再スキャンを要求することになります。 形成が「ソフトウェアが認める製作可能範囲」なのか?という問題は、機械化になればシビアになりますし、かなりの確率で「製作不可」になり「再形成」になるのではないかと思います。


ちなみに、上に掲載した4枚のケースをジェニオン経由でフレーム製作する場合、スキャン前に相当量の修正を施さなければ「製作」できません。


現段階ではスキャナーで読み込んだモノを「元データ」とし、
「元データ」に人の手を加えることを許しません。
適合を緩く、キツく
コンタクトを強く、弱く
咬合を強く、緩く
などの調整はパソコン上で調整可能ですが・・・
スキャン後に【アンダーカット部を修正する】
【マージン位置を下げる・滑らかにする】
等のことは、元データの改ざんになり責任の所在が不明確になるため、
パソコン上で出来ないようになっています。 
 特定のインプラント上部構造などの製作を除けば、
殆どのケースは技工士の手を加えないと「製作不可」になります。
(例えばこの写真では、マージンより上の赤い部分はアンダーカット)



【注】ノーベルのジェニオン
 近々更新される最新バージョンでは、コーヌス・シュリッテンのようにテーパーの合計範囲内で着脱方向の途中変更が可能になるそうです。アンダーカットの問題は少し緩くなるようです。





弊社ではe.max-CADを半焼結でお預かりしクリスタライゼーションとステインを施す仕事をいただいていますが、以前に比べて最近ではその数が随分と減りました。
今その歯科医院からは、e.max-CADよりe.maxプレスの仕事の方が多くなりました。

1、医院内で全て完了 
2、医院→クラウドCAMセンター→医院
3、医院→クラウドCAMセンター→ラボ→医院 
4、医院→ラボ→クラウドCAMセンター→ラボ→医院
5、医院→ラボ→CAMセンター→ラボ→医院 

もし、口腔内スキャナの普及率が上がった場合、その普及率の上昇とともに1、2、3のラインが一時的には増える傾向をみせるかもしれませんが、前述のことから考えると、そう簡単に物事が目論み通り進んでいくほど甘くはないのではないかと思っています。

ラボの存在は、例えその先が手技で作るモノであろうと、中間工程を機械任せで作るモノであろうと、医院サイドがやり過ごすエラーを補正でき、患者さんの要望を満たすプラスαを施せる、重要な存在であると考えています。

さらにいうなら、今後さらに注目されるであろう「咬み合わせ」への取り組みや、これまでも沢山語られ続けている「技工士の模型を読む力」から導き出される補綴物の価値(内容)などは、単に「空間を埋めるだけの補綴物」とは全く異なるモノとも思っていますし、CT及び、周辺機材の進化に伴い、その取り組み方によっては、逆に世間から「技工士の存在」は見直されてくるかもしれないとさえ感じています。



技工の行く末を危ぶみ、CAD/CAMについては結構な時間を割いて情報収集し、世界の流れ、各メーカー、企業の考え、方向性などについて、薄ぼんやりながらもイメージできたつもりです。

アメリカの大型ラボでは機械化を推し進め、「従業員数の少なさに対する売上高」を自慢するようになったと聞きます。日本では補綴治療の8割を占める「保険」への進出を目論むCAD/CAM軍団の最大の壁は、日本の保険制度であり、日本の歯科医師ではないかと思います。
日本の技工業界がアメリカの一部のラボと同じようになる日もくるかもしれませんが、近い将来のことではないと思いますし、近い将来になってはいけないとも思います。
訴訟社会のアメリカでは、「咬合と全身の関係は無い」としています。ひとたび「関係ある」とすると、とんでもない訴訟が歯科界を襲うからだそうです。


学ぶほどに、10年程度の近い将来どうなるとも感じなくなりました。

しっかりと足元見据えて頑張っていきます。





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