2011年7月5日火曜日

ツルタ式インスツルメント  ‐真似るということ‐

私が技工士になり、最初に勤めたのは歯科医院でした。
その歯科医院ではメタルボンドは外注していて、その外注先はフリーフォーム・デンタルアートでした。
当時のフリーフォーム・デンタルアートは鶴田さんという天才技工士が営んでいた会社です。

鶴田さんがメタルボンドを作った患者さんの模型では「どれが天然歯か?」というゲームが出来ました。
模型の唇側から見ると、細かなディティールが天然歯そっくりに作られていて見分けがつかないのです。

そのクオリティはじっくり時間を掛けてというものではなく、普通の技工士以上に素早く作り、当たり前のようにビックリするようなクオリティだったのです。

医院が休みの木曜日にはよく見学に行っていましたが、夕方6時くらいになると
「おい小林! 俺をまだ働かせるのか? 俺を殺す気か?」などと言っては、トレーにおつまみとお酒を乗せて呑み始めていました。

この人凄いな、技工ではこの人のようになれたらなと思い、私もそれなりに自分なりに努力もしたのだろうと思いますが、やればやるほどその遠さを実感し、自分で考える能力が無い私は、とにかく真似が出来なきゃ話にならないと考え、徹底的に真似することにしました。

クラウンなどは鶴田さんが作った補綴物が入っている模型を見ながら作ることは勿論、一緒に焼肉屋へ行ったときも食べる順序を真似、嫌いだった長ネギを美味しそうに食べる鶴田さんを見て、同じように長ネギを美味しそうに食べる真似をしたほどですw

おかげで今では長ネギ大好きです。。。

そんな私を見て鶴田さんは「小林バカやろぅ。 天然歯が先生だ!」とよく言っていました。
その通りですが、私にとっては天然歯の模刻とは別次元のことでした。

天然歯を真似る能力というより、天然歯をこんな風に表現できる鶴田さんを模倣したかったのかもしれません。

凄いなと思った人に会えたなら、それだけでラッキーだと思います。
会えるなら真似られますし、真似た分だけ吸収もでき、咀嚼して自分のものにもなるでしょう。

自分より優れた人の意見も聞けず、真似も出来ず、役にも立てなかったとしたら悲しいですしね。

鶴田さんは、もう20年以上前に30代後半で他界されました。 がんでした。



日本歯科工業社から売られている「ツルタ式 インスツルメント」は鶴田さんが考案して作られたインスツルメントです。

もちろん私も使っています。

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